おもしろプロダクション

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朝鮮学校の女の子の思い出

中国行きのスロウ・ボート

村上春樹は短編「中国行きのスロウ・ボート」の中で、中国人の女の子との思い出を書いているが(まあ小説だけど)、僕もそれと似ていなくもないほろ苦い思い出を抱えている。前に何かをしなかった後悔は「可能性の貯金」として貯めこむことができると書いたけど、何かをしてしまった後悔というのは後々まで尾を引くことになる。中学生のときに、朝鮮学校の女の子とのあいだにあった出来事です。

たしか中学3年の夏休みだったと思うけど(例によって記憶は曖昧)、京都市内の中学生が学校の垣根を越えて集まる会みたいなのがあって、通っていた中学校の代表として、何人かの友達といっしょになぜか僕がその会に参加することになった。暇そうに見えたのかもしれないし、断らなさそうに見えたのかもしれない。

その会には京都市内の中学校の生徒に混じって朝鮮学校の生徒も何人かいた。男はほかの中学生と同じような制服を着ていたけど、女の子は民族衣装のチマチョゴリを着ていたので、すぐにわかった。今はたしか女の子も民族衣装は着ないよね。

で、その中にひとり、お人形さんのような(たとえが昭和)ものすごくかわいい女の子がいて、まあ見た目がタイプだっただけだけど、僕はその場でひと目惚れをしてしまった。しつこくたとえさせてもらうと、映画『パッチギ!』の沢尻エリカのような女の子でした。そういえばこの映画も京都が舞台でしたね。

というわけで、僕はなんとかその子と仲良くなろうと思って、いくつかのグループに分かれて話をする時間のときに、友達に頼みこんでグループを変わってもらい、その子と同じグループになった。話してみるとその子は学年はひとつ下で、性格も良くて(恋してるからね)、チマチョゴリも似合っていたし、はにかむように笑った顔もステキだった。書いてて恥ずかしくなってきた……。

朝鮮学校の女の子と世間知らずのアホな中学生のあいだにどんな共通の話題があったのか覚えてないけれど、グループのほかの生徒はほとんど無視して、僕はその子にばかり話しかけつづけた。

そのうちにグループの話題は学校の部活の話になり、それぞれがどんな部活に入っているかを発表しあうことになった。僕は当然、その子が発表したあと最初に意見を言えるように、あらかじめしゃべる内容を考えておいたのだけど、その発言をしてしまって以降、今まで5000回くらい後悔しているのだが、言ってはいけないことを言ってしまったんです。

僕はその子がバレーボール部とか放送部とか、どこの学校にでもある部活に入っているだろうと決めこんで、「あー○○さん、ぽいなあ。めっちゃ似合う!」みたいなことを言おうとしていたのだけど、その子は民族舞踊かなにか、朝鮮学校ならではの部活に入っていたのです。そして、僕はその発言の内容を頭で理解する前に「あー○○さん、ぽいなあ。めっちゃ似合う!」と言ってしまったのだ。まわりの生徒たちは僕の発言を聞いて笑っていたが、そのあいだその子は笑わずに、困ったような悲しそうな顔をしていた。それ以降なんとなく気まずくなってしまい、僕はそれ以上彼女に話しかけることができずに、そのまま集会は終わった。

中国行きのスロウ・ボート」ではこのような誤謬(過ち)は、結局は逆説的な欲望であるのかもしれないと書いているが、そうじゃなかったと信じたい。信じたいけど確信は持てない。小説では山手線の逆方向に乗せてしまった中国人の女の子を新宿駅のホームで待ってあやまることができたけど、中学生だった僕はどこで待てばその子ともう一度会えるのかわからなかった。以来、僕はその朝鮮学校の女の子に会っていない。