読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

おもしろプロダクション

おもしろき こともなき世を おもしろく

僕がラグビー部に入った理由

カフカの小説はよく「不条理」という言葉で言い表されるけど(朝起きたらベッドの中で大きな虫になっていたとか、目の前にある城にいつまで経っても入れないとか)、僕が高校でラグビー部に入ることになった理由というのも、「不条理」という表現がぴったりくるものだと思う。

僕は今でも痩せ型の体型なので、たまに「昔なんの部活してたと思う?」みたいな話題を振ったときは、たいていテニス部とか卓球部とか、なんとなくそういう部活だと言われることが多い。今までノーヒントでラグビー部と答えられた人はいない。そしてなぜか今でも覚えているのだけど、高校に入学したときの僕の身長と体重は167cm、50kgだったので、今よりもさらにヒョロヒョロのもやしっ子だった。そんな僕がなぜラグビー部に入ることになったのか。

僕は小3から中3までの7年間、平日も休日も関係なく野球漬けの毎日を送ってきたから、高校では部活はせず、のんびりバイトして彼女なんかつくって、チャラチャラ生きようと思っていた。思っていたのに、そんなささやかな夢と希望は入学初日に崩れ去った。

高校生活の1日目。

体育館で入学式が終わってから教室まで歩く道のあいだでは、大学のサークルの勧誘よろしく、先輩たちによる部活の勧誘が行なわれていた。なかでもひときわ目立っていたのはアメフト部だった。

僕の通っていた高校には京都でもめずらしいアメフト部があって、例の甲冑(っていうのかな)を着た先輩たちは、男子生徒を見かけては他の部活よりもひときわ強引な勧誘活動を仕掛けていた。そうこうするうちに僕もその甲冑軍団に取り囲まれ、勧誘(という名の脅迫または恫喝)を受けることになった。アメフト部は全国大会にも出場するくらいだったから、全員体が壁のように分厚い。そんなごつい先輩たちに囲まれたうえに逃げ道を塞がれ、なす術もなく半ベソをかいて立ちすくむ僕。観念してもう少しで入部を受け入れようとしていたそのときだった。救いの手が差し伸べられたのは。

甲冑軍団に比べると体がひと回り以上小さいお兄さん2人が、アメフト部員を押しのけて僕のところまでやってきて腕をつかみ、人懐っこい笑みを浮かべて「大変やったな、こっちに避難しよう」と言って、そこから救い出してくれたのだ。ごつい男たちのあいだをすり抜けるその敏捷さは、さながら忍者か闘牛士のようだった。僕は助かったという安堵の思いがあふれて一気に緊張が解け、なかば放心状態でお兄さんたちに連れられるがままその場を離れた。

しかし向かった先は教室ではなく、校舎の裏手にあるコンクリートの薄暗い建物だった。錆びた鉄の扉がならぶその建物まで連れてこられた僕は、疑問に思う間もないままに、ヘタクソな字で「プロレス部」と書かれた一室に通された。部屋に入ってまず最初に感じたのは、思春期の男特有のツンとくる汗と土と埃の混じった独特の匂いだった。そして切れかけの蛍光灯が灯す6畳ほどの狭苦しい部屋の真ん中には、机がひとつあって、その上に1枚の紙きれが置かれていた。

そこに来てようやく僕は騙されたことに気づき、後ろを振り返ったがもう手遅れだった。さっきまで人の良さそうな表情を浮かべていたお兄さんたちが扉の前に立ち、打って変わって冷酷な表情を浮かべてこちらを見返していた。そしてひとりが口を開いてこう言った。

「さ、そこの紙に名前書いてもらおか。書き終わるまでこの部屋から出さへんから」

こうして僕は震える手でラグビー部の入部届けに署名し(この話に唯一の救いがあるとすれば、そこがプロレス部ではなく、ただのプロレス好きの集まりだったことだ)、以後3年間、筋トレとプロテインが大好きなマッチョな男たちに囲まれて、かけがえのない青春を過ごすことになった。バイトとデートに明け暮れるという夢と希望は、永遠に叶えられることのないままに。たぶん僕が夢とか希望という言葉が嫌いなのは、この体験があるからだと思う。